英語、漢字、カタカナ、ひらがな。商品の発音(称呼)ごとに商標登録する必要はありますか?
たとえば製品名がローマ字表記のとき、ローマ字で商標登録出願するのはもちろんとして、カタカナ表記でも出願しておいたほうがよいのでしょうか。実務ではどのように処理されているのかを交えて見ていきましょう。
カタカナとローマ字であればどちらかのみでもよい
たとえば「KIRIN」を商標登録したい場合、「KIRIN」を登録しておけば、必ずしも「キリン」を登録する必要があるとはいえません。
これは商標法第38条第4項の括弧書きにおいて「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。」という規定があるためです。
ただし、他人による当該商標の使用を防止する目的だけでなく、ローマ字の商標とカタカナ表記の商標の両方を使用する目的がある場合は、余裕があれば両方とも登録するほうが良いと考えられています。
特に商標が造語の場合、ローマ字とカタカナで観念が同一にならないことから同一性の範囲に含まれなくなる可能性があります。
そのような造語の商標であって、ローマ字とカタカナの両方を積極的に使用されるのであれば両方とも権利化するほうが間違いないでしょう。
カタカナとひらがなであればどちらかのみでもよい
漢字は?
漢字の場合、称呼が一致していても必ずしも意味が全く異なる言葉が多数あります。従って、漢字とひらがな、カタカナ、ローマ字が全て同一とは言えないことから、漢字表記とその他の表記を使用されるのであれば、別々に権利化されるのがよいでしょう。
「振り仮名を付した文字商標」はどう解釈すべきか
漢字表記やローマ字表記の上に読み仮名をふったものを商標として登録出願されることがあります。
特許庁の審査基準によると、読み仮名が一般的には読めないものであれば、読み仮名の称呼と自然な称呼が生ずるとされています。つまり、「紅梅」に「ベニウメ」の読み仮名をつけると、自然な読み方である「コウバイ」も称呼とされます。
また、自然な称呼が2つ生じるときはそのうち1つを振り仮名としていても、もうひとつの称呼も生じるとされています。たとえば「白梅」に「シラウメ」の読み仮名がついていれば、「ハクバイ」の称呼も生じます。
しかし、これについては特許庁内でも解釈が分かれています。たとえば、2003年の審決では、「彩香」と「さいか」が二段に並んでいる商標は「さいか」の称呼を特定するものであり、他の「あやか」「さいこう」などの称呼は生じ得ないと判断されました。一方、2006年に行われた審決では、「花蘭」と「キャラン」が併記されている商標は、「キャラン」の他に漢字の表記から「カラン」「ハナラン」の称呼も生じると判断されているのです。
特許庁の審査官は審査基準に従って判断しているはずですが、実際には担当の審査官によって判断が異なっていることがこの例からよくわかります。それくらい称呼については判断が難しいのが現状です。
商標登録出願の際、商標の称呼について不安がある場合は、出願前に特許事務所で弁理士に相談してみることをおすすめします。