標準文字商標とロゴ商標
1.標準文字商標
標準文字商標とは、「登録を求める対象としての商標が文字のみにより構成される場合において、出願人が特別の態様について権利要求をしないときは、出願人の意思表示に基づき、商標登録を受けようとする商標を願書に記載するだけで、特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体(標準文字)によるものをその商標の表示態様として公表し及び登録する制度」(https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/syouhyou_5_3.htmより引用)です。
出願時に【標準文字】と記載することによりフォントやデザインを指定することなく文字のみを保護することができます。使用するフォントが決まっていない場合やデザイン性ではなく文字のみを保護したいときに有効な出願方法です。
2.ロゴ商標
(1)種類
ロゴ商標といっても文字のみで構成されるがその文字のデザイン性が高い商標(以下、「ロゴ文字商標」と呼びます。)、デザイン性の高い図形と文字で構成される商標(以下、「図形&文字商標」と呼びます。)、デザイン性の高い図形のみからなる商標(以下、「図形商標」と呼びます。)などがあります。従って、ロゴ商標というだけではどのような商標を定義しているのか不明で話が合わないこともあります。本記事では「ロゴ文字商標」を中心に記載します。
(2)出願形態
ロゴ商標の場合は標準文字商標と違って画像データを使用して出願します。従って、標準文字商標のようにフォントを自由に変えて使用することはできません。
3.商標の使用権及び禁止権
ここで商標の権利について簡単に述べたいと思います。商標権には自身が使用することができる「専用権」と他人の登録や使用を排除することができる「禁止権」というものがあります。
専用権は、登録商標と同一性の範囲にのみ生じます。従って、同一性の範囲を外れた使用をする権利はありません。使用してはだめというのではなく自己責任での使用となります。従って、他人の商標権の類似範囲での使用となって商標権侵害となるおそれがあります。
禁止権は、登録商標と同一性の範囲、及び、類似範囲まで生じます。従って、使用権の範囲よりも広い範囲に生じます。
4.メリット
(1)標準文字商標
標準文字商標の場合は、フォントを指定せずに文字のみを保護する権利のため、自由にフォントを変更できますので文字(言葉といった方がイメージが湧くかもしれません)自体に強い拘りがある場合にはおすすめです。
商標を使用するときにフォントやデザインを気にせずに使用できますので、使用時の汎用性も高いでしょう。文章中で頻繁に使用する場合などにも使用勝手がよいといえます。すなわち、使用権の範囲は他の商標に比べて広いと言えます。
(2)ロゴ文字商標
ロゴ文字商標の場合、文字のみではなくデザイン性も含めて登録になりますので、文字は非類似であっても明らかにデザインを真似しているような商標も排除できる可能性があります。デザイン化した文字にRマーク(®)を使用する場合にはロゴ文字商標で権利化した方がよいでしょう。
また、標準文字商標のように文字のみではなくデザイン性まで含んで他人の商標との違いが出るため、目で覚えて貰うことができ、まだブランドを立ち上げてばかりのような場合にブランド力が付きやすいというメリットがあります。
さらに、文字について他人を排除できる可能性もありますし、デザイン性についても他人を排除できる可能性もあるため、上記した禁止権の範囲は標準文字商標よりも広いと言えるでしょう。
(3)図形&文字商標
基本的にはロゴ文字商標と同様です。
(4)図形商標
文字を含まないため、文字を保護することはできないのですが著名なブランドにはハウスマークのような代表的な図形があります。図形ですから覚えて貰いやすいですし、他の文字などと組み合わせて使用しても誰の商品或いはサービスか分かりやすいため、標準文字商標と対極でありながら使い勝手の良い商標といえます。
また、デザイン性が高い場合は図形商標自体が模様として使うことができる場合もありますし、逆に模様が商標として機能するようになることもあります。
5.デメリット
(1)標準文字商標
文字のみにしか権利がないため、もしデザイン性が高い商標を使用していても他人がそのデザイン性を取り込み、文字のみ非類似で使用しても基本的には商標権で対処することができません。すなわち、禁止権の範囲は狭いと言えます。
また、特徴的なデザインのロゴ文字商標として使用すると、ときには他人の登録商標のデザインに類似してしまい、デザイン性で商標権侵害となってしまう可能性があります。
さらに、あまり特徴のない言葉ですとそもそも登録にならない(記述的商標など)場合もありますし、せっかく登録になっても同じ文字を使用しながら特徴的なデザインの他人の商標が登録になってしまうこともあります。
(2)ロゴ文字商標
デザイン性も含めて登録になりますので、使用するときは同一性の範囲内、すなわち、出願した商標を基本的にはそのまま使用する必要があります。完全同一でないといけない訳ではないですが、標準文字商標のように自由に変更はできません。すなわち、使用権の範囲が狭いと言えます。
(3)図形&文字商標
基本的にはロゴ文字商標と同様です。
(4)図形商標
図形のみのため、デメリットは特にないでしょう。
6.標準文字商標とロゴ商標のどちらがよいのか
毎日のように質問されます。毎回悩むのですが、デザイン性が高いロゴ文字商標或いは図形&文字商標であればロゴの方がよいでしょう。また、Rマークを使用する場合はロゴ商標がよいでしょう。一方でデザインが決まっていない場合やデザインがあっても商標として見たときに特徴的と言えない場合は標準文字商標がよいでしょう。
商標として見たときに特徴的と言えないとは、アパレルブランドの商標で一見スタイリッシュに見える文字商標を使用することがよくあります。確かにスタイリッシュで雰囲気はよいのですが、正直標準文字と大差がない場合が多いです。そのような場合は標準文字商標で権利化してもよいと感じます。
結局のところ標準文字商標とロゴ商標のどちらがよいという結論が出る訳ではないのですが、一番は標準文字商標とロゴ商標の両方を権利化することがよいのは間違いないでしょう。しかし、費用が高くなりますので起業したてやブランドの立ち上げ当初はそのような余裕がないと思います。
であれば、商標をどのように使うかというところから検討されてはいかがでしょうか。例えば、アパレルであれば被服のタグやデザインで使用することも予想されるため、ロゴ商標の方が向いているのではないかと感じます。化粧品などの場合も同様です。一方で文字自体を主張したいようなコンサルティングなどでは標準文字商標の方が向いているかもしれません。ただし、コンサルティングなどで依頼される言葉の場合、言葉自体に特徴がないことが多いため登録のハードルが上がってしまうことも多々あります。
結論がでず申し訳ないのですが、結局のところはケースバイケースとなります。どちらがよいか都度悩むことも商標のことを真剣に考えられているからこそですからよいことではないでしょうか。また、参考になるのは同業他者で成功しているところの登録状況を見ることです。成功しているからには理由がありますので、登録商標を参照し、同じようにしてみるのも良いことだと思います。
7.アマゾンのブランド登録の場合
目的がアマゾンのブランド登録の場合は標準文字商標を選択してください。ロゴの場合、アマゾンが商標の不一致によりブランド登録を認めてくれないことが多々あります。